バイオマスプラスチックの生分解性について

【生分解性樹脂について】

生分解性樹脂も、分解条件や材料など、様々な製品がありますが、当社では歯ブラシの製造工程及び使用時の特性上、バイオマス樹脂の中でも、いくつか条件がありクリアできるものを選択しております。

① 柔軟性のある樹脂                      

② 水に強い樹脂

③ 分解速度の遅い樹脂

● 毛が抜けない適度な柔軟性のある樹脂

打ち込みと言われる製造方法:植毛穴に、ブラシを2つ折りにして、金属片で毛を押し込む。植毛穴の直径よりも大きい寸法の金属片に押し込むため、樹脂が硬いと割れてしまいます。そのため、適度な柔軟性のある樹脂であることが求められます。
現在歯ブラシに適している樹脂は、石油化学系の樹脂ではポリプロピレン、PET樹脂です。

● 水に強い樹脂

海洋分解とは、相反する条件です。
歯ブラシは、水にさらされる時間と回数の多い製品です。磨いている時間、ブラシが乾くまでの時間(植毛穴の内部まで乾く時間)は、それなりに植毛部にストレスはかかっている状態で、分解/崩壊の条件になります。

実際、石油化学系の樹脂でも、重曹やアロマオイルなどのアルコールとの化学反応により、ヘッド部が割れるという事案もあります。ヘッドの割れは、口内の怪我につながりますので、いくらエコと言えども、安全は最重要課題です。                                

●分解速度の遅い樹脂

こちらの条件も生分解、海洋分解とは、相反する条件です。
当社では樹脂の製造から2年間を使用期限としております。
樹脂はおおむね、樹脂の製造直後の1か月で、その後徐々に強度が落ちていく特性があるようです。当社は10N(ニュートン)以上という基準を設けております。すぐに折れることはありませんが、2年間を過ぎると、パームグリップ(グー握り)で磨く方は、テコの原理で折れやすくなります。

「歯ブラシは2年も使わない」とおっしゃる方は多いのですが、竹の樹脂はある程度の期間をあけて作っておりますので、樹脂の製造、柄の成型、植毛などの製造工程、お客様に出荷するまでの当社の在庫期間、販売店様での在庫期間、ユーザー様の買い置き、使用期間をそれぞれ1~3か月として考えても、合わせてみると決して長くない期間です。

初めて生分解性樹脂を使った歯ブラシを作って以来この24年間、国内外メーカーの樹脂をいくつも試してまいりましたが、上記の条件のほかに実際には「ヒケ(成型時の樹脂の収縮によるへこみ)のできない樹脂」「耐熱温度の高い樹脂」「日用品、消耗品として続けられる価格」「成型機が壊れない樹脂」など、細かい条件は枚挙にいとまがありません。

特に日本ならではの湿度の高さで分解が進む、夏の暑さで歯ブラシが変形するなど、工業製品としての耐久性も兼ね備える必要がありますが、それは、前述したとおり、海洋分解、生分解とは相反するものがあります。

実際、土の中に入れるまでは耐久性があるけれど、土の中に入ったら分解が速いという樹脂メーカーのデータを信じて発売した歯ブラシは、1年で分解してしまった樹脂もありました。

しかも、外国メーカーで、自社の直接取引だったためか、対応も悪く、高くて痛い勉強代となりましたが、なにより多くの方にご迷惑をおかけしたことを深く反省いたしました。

そのようなことがあり、今後はなるべく目の届く国内で、信頼できる取引先と仕事をしたいという思いが強くなりました。
とはいえ、歯ブラシが割れてしまう事案は、他社品でも生分解性樹脂が発売された当初からありました。

植毛工程だけではなく、成型工場も効率が悪く、成型してくれる工場も限られており、先陣を切った歯ブラシメーカーもほぼ撤退することになりました。 樹脂メーカーも一部を除き、「歯ブラシには使わないで」という樹脂の使用条件が出されたことがありました。当社はこれを受けて、これからどの樹脂で歯ブラシを作ろうか、それとも需要がないならエコ歯ブラシの製造は辞めてしまおうかという岐路に立つことになりました。

【当社の竹の樹脂について】

そのような背景がありましたが、2008年に静岡県の中小企業から紹介された「竹の利活用のプロジェクトから生まれた竹の樹脂」と出会い、何度もテストを繰り返し、「竹の歯ブラシ」の発売を決めました。

・国産の竹を使っている(もちろん無農薬) ・竹の微粉末を入れたことにより、
ヒケが解消され、耐熱温度が60度から80度にできた

・樹脂メーカーに頼らない歯ブラシづくりができる

・エコの需要はあまりないが、一般の石油由来の歯ブラシが使えない化学物質過敏症の方は、ポリ乳酸の樹脂なら使える方が多い。

・普通の歯ブラシと使い心地が劣らない。

・ただし、2年間の使用期限は設ける。

ただし、竹繊維のレーヨンにも共通することですが、すべての企業が原料から製品づくり、販売までを自社で一貫して行うわけにはまいりません。

そのため、竹の樹脂を混ぜている生分解性樹脂の製造工程まで遡って、「全員が納得する安全性」を担保するのは大変難しいと言わざるを得ません。

無責任に聞こえるかもしれませんが、社会が「独自性」「特異性」「新規性」と、工業製品としての製品の安定性を求め続ける限り、原料から製品までの全材料の全工程を明かすことも、どの視点からも納得できるものは、ごく限られた高額品になってしまい、およそ歯ブラシのような消耗品には向かないのでは、と思います。

良心に基づいた人体には影響がない安全性のもとで製造される信頼できる企業様の製品を使い、当社も誠意をもって製品化していく他ありません。                      

【竹レーヨン】

この分野に限らず、全財産を投げうって熱心に研究され、製品化
なさっておられる社長様もおられますし、便乗する企業も存在することと思います。

ただし、コットンも農薬はたくさん使われているという話も聞きますし、化学物質過敏症の方はオーガニックコットンにも反応が出る方もおられます。まだ和服業界では絹を使い、自然の染料を使い、気の遠くなる作業で作っておられます。一方、普段着としての価格ではありません。価格というものは、ひとくくりに決まるものではありませんが、ある程度、本物・天然のものを使っていることや、手間暇をかけている目安にはなるかと思います。

工業製品だけに限らず食品に関しても、工程が多いほど、薬品は使われているものと、私は個人的に考えております。また、紙面や時間の制限のあるCMをそのまま鵜呑みにするのも、こう言った裏側は見えてきませんので、できるだけ顔の見える生産者(経営者)のものを選ぶのが良いと考えております。

そう言った意味では、少し高いかもしれませんが、良いものを使って製造している中小企業の製品も選択肢にして応援して頂きたいと思います。

【竹歯ブラシのブログについて】

ナイロン4を使用しており、生分解すると謳っているのはほぼ中国製の製品だと認識しております。当社及び当社が取引しているナイロンの販売会社では、海水の中はおろかそもそも生分解する樹脂であるという情報は持ち合わせておりません。ただし、そうではないと否定するものでもありません。

また、ナイロンの4や6もさらに細分化されており、ナイロン4が正統派生分解ナイロンのようなブログですが、植物性樹脂を配合しているものは410(よんとう)ナイロン、610(ろくとう)ナイロンなど呼び名が違うようです。

しかし、ナイロンは歯ブラシだけではなく、アパレルを始め他業界でも使っている樹脂ですし、ナイロンの販売会社ですら、どこまで細分化されているのか全容は分かりません。

当社ではお客様のニーズが多様化しているため、現在4種類の毛をご用意しております。

・豚毛:脱プラ生活、化学物質過敏症の方も使える。イスラム教徒、ヴィーガンの方は不可。

・馬毛:脱プラ生活、化学物質過敏症、イスラム教徒の方も使える。ヴィーガンの方は不可。

・超極細毛:石油由来。ヴィーガンの方は使える。歯周病予防に向いている。

・ヒマシ毛:ヒマシ油100%:ヴィーガンの方は使える。生分解性樹脂ではない。デュポンナイロンよりも耐久性は若干劣るものの使い心地は大差なし。

また、集成材または無垢の竹を使った歯ブラシに関しては、当社でも製造を試みました。

しかし、あの1本の竹の柄ができるまでには、伐採、乾燥、切断、1mm単位での板加工、ヤスリ掛け、歯ブラシの形状への成型と、それなりの労力と、大量の廃材・削りカスの排出が伴います。

・足元のぬかるむ場所で、残す竹を選定しながらの長い竹の伐採工程

・自然乾燥で1年が望ましいとされる乾燥工程、またはカビ止め剤 (特に春から秋の竹は水分量が多く、切った数日後からカビが発生することも。)

・中が空洞の円筒から、平たい竹を切り出すために、節を避けて、板を切り出す。 竹1mm単位で長さと幅を揃え、歯ブラシの柄の厚みにするまで、数ミリ単位で何度も何度もヤスリ掛けする板工程

・竹の板を歯ブラシの形に成型する為に1本1本成型機で削っていく。 上記のように、歯ブラシを植える前の柄を作るまでの工程で、これだけの手間と時間と場所が必要です。

人件費が安く、国土が広く、機械が安い中国やインドではどうということもないことでも、日本は湿気が多く、人件費も高く、林業従事者が減っている現在ではなかなか難しいことです。またそこまでしても、カビや虫の可能性もあり、クレーム対象となり、レビューに書かれてしまいますし、実際気持ちの良いものではありませんので慎重になります。また、繊維状の竹の繊維を吸い込む危険性もあり、経営者としては、社員の健康被害も気になるところです。 しかし、無垢材は難しくても、薄く切った竹を重ねて板状にした集成材なら現実的かもしれないことがわかりました。

集成材なら、節の部分も使え、もう少し扱いは簡便になりますが、接着剤を使用します。しかしながら中国からの輸入品となり、できるだけ国内の竹を使いたいという趣旨からは外れてしまいます。

また無垢材、集成材のどちらを使っても、竹は縦の亀裂に弱いので、割れないように、ヘッドの幅や厚みを持たせる必要があり、使い心地の面で違和感を感じられる方もおられます。

当社では、板材からの工程を自社でできるよう、機械を購入してテストを繰り返しましたが、上記のことから、先進国である日本で日本製を謳うには、難しいことがわかりました。

竹の専門家の方にもご意見を聞き、
当社では従来通りの製品を続けることとしました。

それは、下記の理由があります。

・今の竹の樹脂は竹をほぼ丸ごと使うため、大量の粉塵や切れ端など無駄が出ない。

・工芸品のような価格にもならず、ある程度短期間で作れる。

・製造工程でできるだけ自社が関われる。

・射出成型という金型を使った成型方法なので、使い心地も普通の歯ブラシと同じであること。

無垢材及び集成材を使った歯ブラシは、貧困問題を解決できる社会貢献という側面もあるかと思います。そして竹はもっともっと活躍できる素材だと思っております。そういう点で、無垢や集成材の竹製歯ブラシは、中国やインドなど外国から輸入する企業様にお任せするのが良いのではないかという結論に達しました。

【まとめ】

歯ブラシは前提として海に廃棄するものではありませんので、海洋分解する必要があるのかはわかりませんが、度重なる洪水、無責任なごみの廃棄、進まない回収・リサイクルなど問題はまだまだありますので、使用後も地球環境を汚さない取り組みは必須です。

中小企業では手が回らないことの方が多く、もどかしさもありますが、当社では中小企業だからこそできることを意識して、皆様のお声を反映して製品づくりを行っております。

10年前には、環境への関心が低く、当社にはこのようなお問い合わせはありませんでした。しかし、10年前とはエコやサスティナビリティへの取り組みがまったく違いますように、10年後もまたまったく違う世の中になっているのだと思います。

10年後にこの文章を読み返し、「古い!」と思えるような世の中にしたいと思います。 微力ながら、これからも先進的でサスティナブルな取り組みを続けてまいりますので、ご支援・ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。                             

ファイン株式会社

代表取締役 清水直子

2021年1月